2019年12月17日 12:00
モーツァルト年に聴く、レコード発売70周年記念盤。第二次世界大戦前後において最も大きな作曲家である。その作曲は一般人にとっては難解なものであるが、それはこの人の意図が尋常でなく非凡の才能をもって、交響曲詩の表現力を文学的あるいは哲学的の領域にまで押し上げたからである。この人の大胆な革新態度と強烈な個性は、その比類のない管弦楽法の手腕を駆使してとにもかくにも前例のない驚くべき作品を完成させている。好むと好まざるとに関せず、リヒャルト・シュトラウスの偉大さは認めなければならぬ。言うまでもなく、交響詩やオペラであまりにも有名な作曲家であるが、生前には頻繁に指揮をしていた。本人は生活のためだと語っていたがリヒャルト・シュトラウスは20世紀前半の作曲家としてはラフマニノフやショスタコーヴィチと共に自作自演録音が今でも豊富に手に入りやすく、さらにひとつの作品でも複数の録音が残っている恵まれた存在。ストラヴィンスキーほど音質の良いステレオ録音こそ無いが、自作の録音と等しく興味深いのは、古典派からヴァーグナー作品を指揮している。
ミュンヘンの宮廷楽団のホルン奏者を父として生まれたリヒャルト・シュトラウスは、はやくから音楽に親しみ、21歳でビューローのもとでマイニンゲンの宮廷音楽監督と成ったのを振り出しに、各地の指揮者を歴任した。22歳で最初の交響詩《ドン・ファン》を書き、マーラーに認められた。彼は交響詩に創作意欲を燃やし多数の力作を書いたが、彼の交響詩はリストのそれをさらに発展させたもので自由な構成と多彩なオーケストレーション、新しい技法を駆使した描写力の優れたものとなっている。代表作には、《死と浄化》、《ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら》、《ドン・キホーテ》、《英雄の生涯》等が有る。他には《アルプス交響曲》が有名。また歌劇にも力を注ぎ、《サロメ》や《ばらの騎士》は傑作としてよく上演される。
指揮者としての最初のキャリアは1883年のビューローのアシスタントに始まり、ミュンヘン宮廷歌劇場、ワイマール宮廷歌劇場、ベルリン・フィル、ベルリン国立歌劇場、ウィーン国立歌劇場、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団などで活躍した。録音もラッパ吹き込みから多量に行っているが、その大半は自作自演であった。代表的なものは電気録音の初期からの「ドン・ファン」「ティル・オイレンシュピーゲルの愉快ないたずら」「ドン・キホーテ」「英雄の生涯」で、同じく自作の演奏ではウィーン・フィルとの戦時中のライヴもある。
指揮ぶりは作品の豪華絢爛な響きとはむしろ正反対の、端正で無駄のないものだ。自作以外ではワーグナーの「ニュルンベルクのマイスタージンガー」第1幕の前奏曲や、初の全曲電気録音となったベートーヴェンの交響曲第5番などもある。テンポの速さが以前から取り沙汰されていますが、むしろフルトヴェングラーほどの極端な緩急がない ― それでもステレオ録音初期の指揮者たちよりは揺らぎがある ― 点が本質的な特徴ではないかと感じます。
過剰ロマン的解釈を嫌ったとされるリヒャルト・シュトラウスですが、ワーグナーの演奏に関しては20世紀標準を逸脱していません。グルックの「オーリードのイフィジェニー(アウリスのイフィゲニア)」序曲はヴァーグナー編曲のもの。もっとも傾聴すべきは、そのグルックと同時代のモーツァルトの後期3大交響曲です。同時期には活躍していたブルーノ・ワルターも比較的テンポを堅持する傾向はあったのですが、モーツァルトに関しては他作曲家作品より揺れも大きく、1945年以前はポルタメントやルバートを多用させています。リヒャルト・シュトラウスの解釈からもポルタメントは完全には消えていませんが、構成の安定感は同時期の演奏の中では群を抜いています。
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