名曲名盤縁起 小惑星『イトカワ』と準惑星に格下げされた『冥王星』の音楽◉ホルストの《惑星》組曲のための音楽

武者がえし

2017年02月18日 09:30

熊本地震で被災していて避難所で寝起きしていたので、2016年5月5日に冨田勲さんが亡くなったことは数日後に知った、その時に書きたかったことを含めて、冨田勲さんの『惑星』の合わせて紹介する。
 アメリカ航空宇宙局(NASA)による太陽系の外惑星および太陽系外の探査計画で、1977年に打ち上げられた探査機ヴォイジャーは、2012年8月25日に太陽系を出て、地球から最も遠くにある人工物体となっている。稼動を完全に停止するのは2025年まで飛び続ける。このヴォイジャーには金メッキした銅で作ったレコード盤が積み込まれていて、メッセージを込めた図柄とともに地球上の様々な環境音や人・動物などの音声、楽曲、各国語でのメッセージを収録している。いわば宇宙を旅する地球カタログのボトルメールだ。
 1970年代後半から1980年代にかけて木星、土星、天王星、海王星、冥王星といった外惑星が同じような方向に並ぶため、これを観測の機会としてヴォイジャーは旅立った。

元惑星『冥王星』発見の日 ― 1930年2月18日

 「冥王星」は、太陽系の9番目の惑星だった。だった、と書くのは、2006年に公式に惑星から外されたからである。「惑星の音楽」と言えば、どなたもホルストの組曲《惑星》をご存知だろう。
 1930年2月18日、アメリカ・ローウェル天文台のクライド・W・トンボウによって発見され、翌年「プルート(冥王星)」と命名された時、ホルストはすでに《惑星》を書き終えていた(1918年初演)。冥王星もあると聞いても、追加で書く気はなかった。それからちょうど60年経った2000年5月、イギリスの作曲家コリン・マシューズが書いた「冥王星〜再生する者」が初演された。いかにも太陽系の遠くの端にあるような静謐と爆発を繰り返す音楽である。2006年8月に発売されたラトル指揮ベルリン・フィルのCDが、最後の「冥王星」付き《惑星》録音と言われている。


 多彩な才能の持ち主だったホルストは生涯に、ピアニスト、トロンボーン奏者、合唱指揮者、音楽教師、民族音楽研究家に加え、サンスクリット語にも精通していた。そしてかれこれ占星術にも興味を持ち、組曲『惑星』に結実していく。第1曲「火星」は「戦争をもたらすもの」の副題が有る。その由来は火星が地球に近づく年は何かと戦争の絶えない年であったからだという。が、実際ホルストは火星を書くとき戦争というもの自体をよく知らなかった。大砲の存在すら知らなかったということだ。現代ではテレビをつければ、BSプレミアムで火曜日は西部劇、水曜日は戦争映画、木曜日は戦前、戦後の日本映画というほど大砲や戦争を知識としてでも入ってくる。ラヴェルのボレロ同様、同じリズムが繰り返される「火星」は戦争の恐ろしさを伝えるばかりではなく、聞く人々に情熱と活力を与えるから人気曲となったのは明らかだ。
 ホルストが考えていた「惑星」の曲数は全7曲。当時「冥王星」は発見されておらず、、、と常套的に解説されるが、冥王星が発見されたのは1930年ごろだと言うから、ホルストがこの世を去るわずか4年前である。当の本人は発見されたとはいえ冥王星を組曲の中に付け加える事を嫌い、今でもホルストの「惑星」は全7曲のままである。

コリン・マシューズ作曲のホルストの組曲『惑星』のための追加音楽・冥王星、再生する者。

 誰もが聞きたかったからかは、思えないが、これを補完しようと他の作曲家らによる動きは見られた。『冥王星、再生する者 Pluto, the renewer』は、ホルストの組曲『惑星』に追加する形でコリン・マシューズが2000年に発表した管弦楽曲。
 コリン・マシューズ( Colin Matthews / 1946- )は、イギリスにおける現代音楽の作曲家。1992年から1999年までロンドン交響楽団の作曲家を務めたほか、BBC(英国放送協会)からの依嘱で数多くの作品を作曲している。コリン・マシューズによる『冥王星』は、イギリスのマンチェスターに本拠を置く老舗オーケストラ・ハレ管弦楽団のために作曲され、2000年5月に初演された。
 幾つかの録音が発売した中で、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による「惑星(冥王星付き)」(東芝EMI)国内版は、クラシック音楽としては異例の5日で1万枚という異例のセールスを記録。冥王星が惑星から外れることで、逆にその存在感を増すという奇妙な結果となった。

冨田勲作曲のホルストの組曲『惑星』のための追加音楽・イトカワとはやぶさ。

 ホルストの木星のフレーズを引用して、宇宙ロケット発射のカウントダウンから始まり、宇宙遊泳で更新している原曲にはないストーリー性が与えられており、シンセサイザーで作った演奏という以上に、1977年1月に日本で発売されたLP(RVC-2111)は、新鮮な驚きだった。1977年2月19日付けのビルボード(クラシカル・チャート)及び同月28日のキャッシュボックスでそれぞれ1位にランキングされた。
 ホルストの「惑星」は、編曲や楽団編成の変更禁止、部分演奏の禁止といった禁則事項が設けられていた。現在はホルストの著作権が消失しているが、1976年当時は遺族によって遵守されており、冨田勲盤は制作関係者の努力によって本作におけるシンセサイザーでのアレンジが合法的に認可されたが、その交渉絡みか通常LPレコードのみでの発売だった。しかし後年わずかな枚数ではあったが、CD-4チャンネルLPは、「R4C‐2066」の番号で発売された。
 また、両面合計約54分はLPレコードでの収録時間の限界という制約から、やむをえず「天王星」と「海王星」との重ね合わせなどの工夫が行われた。日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、著作権の保護期間に戦時加算がなされるため、ホルストの作品についても、諸外国とは異なり未だ有効期間であったことが理由として考えられる。海外ではCD化されたが、日本では1991年になって初CD化される。輸入盤では購入できたが、カバーデザインも含め日本版とはカップリングが変えられていた。
 デジタル時代になって、冨田勲さんはLPレコードで制約のあった部分を改善するより、理想を目指していく。DVDオーディオ盤は冨田勲の一連のシンセサイザー音楽作品の中で、唯一マルチチャンネル作品として2003年にリリースされた。そして、今回話題にするのが2011年にリリースされた、ULTIMATE EDITION盤(2017年2月時点・デジタル・オーディオで無制限ストリーミング再生できる)。旧作をベースに最新のデジタル機材を使用して音の加減や差し替えも行って、全体を新たにリメイクした再創造作品です。宇宙遊泳での交信は苦心していた冨田さんでしたが、より音楽的に表現できている。このリリースのあと、ボーカル音声を合成するシンセサイザーボーカロイド初音ミクとのコラボは2012年で、いずれまたリメイク版が登場するだろうと期待していた。だからこそ、2016年5月、熊本地震で被災していて避難所で、その数日後に知った、冨田勲さんの急逝は残念で仕方ない。
 そして、糸川英夫を偲んで作曲した「小惑星イトカワと小惑星探査機はやぶさ」が「木星」と「土星」の間に追加されている。日本の宇宙航空技術の父と呼ばれる糸川英夫博士の少年のような宇宙にかける純粋な夢、宇宙への希望と糸川博士に対する静かなレクイエムのような曲です。

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