ピアノを弾いているのではなく音楽を弾いている*演奏家を聴く バレンボイム ベートーヴェン・ピアノソナタ5,6,7番

武者がえし

2017年09月09日 18:15

通販レコードのご案内華麗ではないが、多様をきわめるテクニック。 ― 崇高なまでの詩情と壮大な構築は、24歳という若い年輪をすっかり忘れさせてしまった

シュナーベル記念のベートーヴェン・メダルを受けたというだけに、バレンボイムは、ベートーヴェンに特に自信を持っているのだろう。若いに似合わず、なかなかしゃれた味を出している(門馬直美)
《米ブラック盤》GB EMI HQS1152 ダニエル・バレンボイム ベートーヴェン・ピアノソナタ 近年は指揮活動が中心となっているバレンボイムが、ピアニストとして充実した活動をしていた時期に録音した1枚。「トリスタンを振らせたらダニエルが一番だよ」とズービン・メータが賞賛しているが、東洋人である日本人もうねる色気を感じるはずだろう。だが、どうも日本人がクラシック音楽を聞く時にはドイツ的な演奏への純血主義的観念と偏見が邪魔をしているように思える。
 ベートーヴェンは固定的な印象を譜面に残していない。同じ譜面を演奏して個性の出る曲こそ、クラシック音楽を楽しむ魅力だ。「作品10」の3曲(第5番~第7番)は、ベートーヴェンの熱心な支持者であったブラウン伯爵夫人アンナ・マルガレーテに献呈されました。
第5番はソナタ形式の通常の4楽章ではなく、スケルツォを省略した3楽章構成。簡潔ながら力強い緊張感を持ち、特に第2楽章の美しい旋律は必見です。
第6番はソナタ形式の通常の4楽章ではなく、緩徐楽章を省略した3楽章構成。軽快で力強く即興的な音楽がお楽しみいただけます。
第7番は3曲の中で最も規模が大きく、特に「メスト」(悲しく)と書かれた第2楽章は、ベートーヴェン作品の中でも最も深刻な表情を持つ音楽の一つ。
 バレンボイムはアルゼンチンというスペイン語圏から出てコスモポリタンとなり、大ピアニスト、アルトゥール・ルービンシュタインからも強い影響を受けたピアニストです。
 1942年、ブエノスアイレスでロシア系ユダヤ人の家系に生まれる。ビートルズと同世代で、フルトヴェングラーのシューベルト《グレート交響曲》の各楽章が片面に収まったレコードが登場して話題になっている。彼こそロックとLPレコード時代の演奏家だ。
 7歳でピアニストとしてデビューしたバレンボイムの演奏を聴いた指揮者、マルケヴィッチは『ピアノの腕は素晴らしいが、弾き方は指揮者の素質を示している』と看破。1952年、一家はイスラエルへ移住するが、その途上ザルツブルクに滞在しフルトヴェングラーから紹介状“バレンボイムの登場は事件だ”をもらう。
 エドウィン・フィッシャーのモーツァルト弾き振りに感銘し、オーケストラを掌握するため指揮を学ぶようアドヴァイスされた。1965年、イギリス室内管弦楽団とのモーツァルトの弾き振りのモーツァルト全曲演奏で評価を確立。
 若き日のバレンボイムの情感豊かでメリハリとパンチの効いたピアノ、透明感のある響きが美しく、すっきりとした仕上がりとなっている。 けっこう自由なアプローチも、感興重視のバレンボイムならでは若き日の有名な演奏。古典派作品というにはあまりにもロマン的なスタイルですが、情感豊かでレンジの広い表現には独特の魅力があります。解釈の斬新さと演奏の集中力という点では「内向的情熱」とでもいった熱気をただよわせて、フルトヴェングラーやクレンペラーが瞠目した早熟性が垣間見れます。
 
 ジャクリーヌ・デュ・プレ、その天才的チェリストとの出会いは1966年12月、フー・ツォン宅にて。夜通し室内楽演奏に興じて意気投合、数カ月後には結婚を決意していた。ユダヤ教への改宗は“偉大な音楽家の多くはユダヤ人”との事実から彼女が望んだことだった。

『近年の教育と作曲からはハーモニーの概念が欠落し、テンポについての誤解が蔓延している。スコア上のメトロノーム指示はアイディアであり演奏速度を命じるものではない。』と警鐘し、『スピノザ、アリストテレスなど、音楽以外の書物は思考を深めてくれる』と奨めている。

 バレンボイムは演奏家である前に、独自の音楽観を持った音楽家であり、楽想そのものの流れを掴むことのできる稀有な才能の持ち主であろう。ピアニスティックな表現も大切なことだとは思いますが、彼の凄さはその反対にある、音楽的普遍性を表現できることにあるのではないか。1966年から1969年にかけてという時期をジャクリーヌ・デュ・プレと共に、苦悩したものがベートーヴェンの後期の作品とシンクロするものがあったのでしょう。
 バレンボイムの演奏の特色として顕著なのはテンポだ。アンダンテがアダージョに思えるほど引き伸ばされる。悪く言えば間延びしている。そのドイツ的重厚さが、単調で愚鈍な印象に映るのだ。その反動のように終楽章の破綻を恐れないおもいっきりの良さ。血の気の多さ、緊迫感のようなものが伝わってくる背筋にぞっとくるような迫力があります。この、若い時のレコードでも変わらないところで、このロマンティックな演奏にこそバレンボイムを聴く面白さがあるのです。

 このソナタにしても、シューベルトやショパンにしても出来不出来に関係なく音楽像が提示されている瞬間は、代え難い音楽性を発揮しています。拳を奮い立たせない指揮ぶりと同じで、バレンボイムのピアニズムは伸ゝ沁ゞ(しみじみ)、澄み切った世界が広がる。音楽の感興に素直に反応しながら、キラキラ輝くパッセージ、快い装飾音を時々散りばめる。
 今、鳴っている音楽だけが重要。全体像を見越し表現する意思は希薄。全てを逃さず掬い上げようと言う緊張はなく、さっきの見逃しは意識しないで、その瞬間、瞬間で美しいところを表現していく。やおら音楽を難しくしていない。次から次へと自分の持っている感覚、音感の勝負をしている。長い物語の巻物を手にとって語るのではなく、巻物を広げ一緒に眺めながら物語ってくれる。その場で聴き手として解らなくても良い、いつか理解できるまでレコードが繰り返し流れ続ける音楽である。
 一石を投じる姿勢は全く無し、長大な音楽のどんな断面でも、ごく自然に好ましい音楽を造ってくれる。商業ロックの時代に育った、レコード世代の演奏家ならではだ。

通販レコード詳細・コンディション、価格

プロダクト

Daniel Barenboim ‎– Beethoven Sonatas: No.5 In C Minor, Op.10 No.1, No.6 In F Major, Op.10 No.2, No.7 In D Major, Op.10 No.3
レコード番号
HQS1152
作曲家
ルードヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン
演奏者
ダニエル・バレンボイム
録音種別
STEREO
BLACK WITH SILVER LETTERING, STEREO 1枚組(150g), Release 1968, Stamper 3G/4G。

コンディション

ジャケット状態
M-
レコード状態
M-
製盤国
US(アメリカ合衆国)盤

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品番 / 34-15622
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