名曲名盤縁起 年に一度の逢瀬を彩る星めぐりの名曲◉ホルスト〜組曲《惑星》より「木星」
七夕 ― 2018年7月7日
天の川の両岸にいる彦星(牽牛星)と織姫(織女星)が年に一度再会する夜だ。もっとも年に一度の逢瀬などというロマンは、万事がコンビニエントな現代の若者にはピンと来ないだろう。でも、会いたくても会えない人を恋い焦がれるというじれったさは、人を大切に思う心に通じないだろうか。
閑話休題。七夕に聴く音楽としては、イギリスのグスターヴ・ホルストの管弦楽組曲《惑星》以上にふさわしい作品はない。太陽系惑星が「火星」「金星」「水星」「木星」「土星」「天王星」「海王星」の順に描かれる。「冥王星」がないのは、1920年の全7曲初演当時、まだ発見されていなかったから。後にお節介な作曲家が「冥王星」の音楽を書き下ろしたが、2006年に準惑星に格下げになってしまったから、もう「冥王星」付き《惑星》はお役御免だ。第4曲「木星」は、華やかな雰囲気の主部の中間に現れる、ノーブルで晴れやかなメロディが感動的な《惑星》中1番の人気作である。
多彩な才能の持ち主だったホルストは生涯に、ピアニスト、トロンボーン奏者、合唱指揮者、音楽教師、民族音楽研究家に加え、サンスクリット語にも精通していた。そしてかれこれ占星術にも興味を持ち、組曲『惑星』に結実していく。第1曲「火星」は「戦争をもたらすもの」の副題が有る。その由来は火星が地球に近づく年は何かと戦争の絶えない年であったからだという。が、実際ホルストは火星を書くとき戦争というもの自体をよく知らなかった。大砲の存在すら知らなかったということだ。現代ではテレビをつければ、BSプレミアムで火曜日は西部劇、水曜日は戦争映画、木曜日は戦前、戦後の日本映画というほど大砲や戦争を知識としてでも入ってくる。ラヴェルのボレロ同様、同じリズムが繰り返される「火星」は戦争の恐ろしさを伝えるばかりではなく、聞く人々に情熱と活力を与えるから人気曲となったのは明らかだ。
ホルストが考えていた「惑星」の曲数は全7曲。当時「冥王星」は発見されておらず、、、と常套的に解説されるが、冥王星が発見されたのは1930年ごろだと言うから、ホルストがこの世を去るわずか4年前である。当の本人は発見されたとはいえ冥王星を組曲の中に付け加える事を嫌い、今でもホルストの「惑星」は全7曲のままである。
コリン・マシューズ作曲のホルストの組曲『惑星』のための追加音楽・冥王星、再生する者。
誰もが聞きたかったからかは、思えないが、これを補完しようと他の作曲家らによる動きは見られた。『冥王星、再生する者 Pluto, the renewer』は、ホルストの組曲『惑星』に追加する形でコリン・マシューズが2000年に発表した管弦楽曲。
コリン・マシューズ( Colin Matthews / 1946- )は、イギリスにおける現代音楽の作曲家。1992年から1999年までロンドン交響楽団の作曲家を務めたほか、BBC(英国放送協会)からの依嘱で数多くの作品を作曲している。コリン・マシューズによる『冥王星』は、イギリスのマンチェスターに本拠を置く老舗オーケストラ・ハレ管弦楽団のために作曲され、2000年5月に初演された。
幾つかの録音が発売した中で、サイモン・ラトル指揮ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の演奏による「惑星(冥王星付き)」(東芝EMI)国内版は、クラシック音楽としては異例の5日で1万枚という異例のセールスを記録。冥王星が惑星から外れることで、逆にその存在感を増すという奇妙な結果となった。
冨田勲作曲のホルストの組曲『惑星』のための追加音楽・イトカワとはやぶさ。
ホルストの木星のフレーズを引用して、宇宙ロケット発射のカウントダウンから始まり、宇宙遊泳で更新している原曲にはないストーリー性が与えられており、シンセサイザーで作った演奏という以上に、1977年1月に日本で発売されたLP(RVC-2111)は、新鮮な驚きだった。1977年2月19日付けのビルボード(クラシカル・チャート)及び同月28日のキャッシュボックスでそれぞれ1位にランキングされた。
ホルストの「惑星」は、編曲や楽団編成の変更禁止、部分演奏の禁止といった禁則事項が設けられていた。現在はホルストの著作権が消失しているが、1976年当時は遺族によって遵守されており、冨田勲盤は制作関係者の努力によって本作におけるシンセサイザーでのアレンジが合法的に認可されたが、その交渉絡みか通常LPレコードのみでの発売だった。しかし後年わずかな枚数ではあったが、CD-4チャンネルLPは、「R4C‐2066」の番号で発売された。
また、両面合計約54分はLPレコードでの収録時間の限界という制約から、やむをえず「天王星」と「海王星」との重ね合わせなどの工夫が行われた。日本は第二次世界大戦の敗戦国であり、著作権の保護期間に戦時加算がなされるため、ホルストの作品についても、諸外国とは異なり未だ有効期間であったことが理由として考えられる。海外ではCD化されたが、日本では1991年になって初CD化される。輸入盤では購入できたが、カバーデザインも含め日本版とはカップリングが変えられていた。
デジタル時代になって、冨田勲さんはLPレコードで制約のあった部分を改善するより、理想を目指していく。DVDオーディオ盤は冨田勲の一連のシンセサイザー音楽作品の中で、唯一マルチチャンネル作品として2003年にリリースされた。そして、今回話題にするのが2011年にリリースされた、
ULTIMATE EDITION盤(2017年2月時点・デジタル・オーディオで無制限ストリーミング再生できる)。旧作をベースに最新のデジタル機材を使用して音の加減や差し替えも行って、全体を新たにリメイクした再創造作品です。宇宙遊泳での交信は苦心していた冨田さんでしたが、より音楽的に表現できている。このリリースのあと、ボーカル音声を合成するシンセサイザーボーカロイド初音ミクとのコラボは2012年で、いずれまたリメイク版が登場するだろうと期待していた。だからこそ、2016年5月、熊本地震で被災していて避難所で、その数日後に知った、冨田勲さんの急逝は残念で仕方ない。
そして、糸川英夫を偲んで作曲した「小惑星イトカワと小惑星探査機はやぶさ」が「木星」と「土星」の間に追加されている。日本の宇宙航空技術の父と呼ばれる糸川英夫博士の少年のような宇宙にかける純粋な夢、宇宙への希望と糸川博士に対する静かなレクイエムのような曲です。
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