フリッツ・ライナーの大地の歌 ― ハイドンの精神で演奏しながら、表現上の抑揚はロマン派のマーラーに相応しいスタイル

武者がえし

2020年02月18日 01:00

通販レコードのご案内包容力溢れるコントラルトのフォレスター、明るい音色で歌い上げるテノールのルイス。

US RCA LSC6087
(演奏者)フリッツ・ライナー指揮 シカゴ交響楽団 モーリン・フォレスター リチャード・ルイス
(曲目)マーラー 大地の歌、ハイドン 交響曲88番《V字》

LIVING STEREO SHADED DOG、オール1S最初期スタンパー。RCA BIBLE10+VERY GOOD評価、リチャード・ムーア/ルイス・レートンRCA一軍制作陣が作り上げたステレオ録音黎明期の名盤。シカゴ交響楽団のパワフルで底力のある響きと木管や金管の見事で、作品の魅力をストレートに引き出した同じコンビの高額盤として高名な最初の「ツァラトゥストラはかく語りき」録音に似ています。


交響曲第4番(SB2081)とともに数少ないライナーのマーラー録音であり、ライナーならではの新鮮な視点が光るマーラー解釈。ライナーは決してマーラー指揮者ではなかったし、作曲者との直接のコンタクトもなかったようだが、2曲のマーラー作品は、彼らしいストレートな解釈で貫かれたユニークな名演です。それはシカゴ交響楽団のパワフルで底力のある響きと木管や金管の見事なソロ・ワークの表出を魅力としていて、表層的にはそこを評価される傾向が厚いですが、オーケストラの機能性重視の、完璧なアンサンブルをもってして、意外なほどシンフォニックに傾かないのは、若き日にオペラハウスの経験を積んだベテラン指揮者ならではでしょう。それもことさら文学性に耽溺することなく、クレンペラーとは別な意味で、感傷を廃した骨太のロマンティシズムを感じ取らされます。


包容力溢れるカナダ出身のコントラルトのフォレスターと、明るい音色で歌い上げるテノールのルイスは、ともにワルターからも信頼を得ていた『大地の歌』の当時最高の解釈者2人の歌唱も聴きもの。このコンビは、ワルターとのコロムビア録音は当然、ライヴ録音も数々あることから、ワルターを介したマーラー解釈は揺るぎない一家言を持つものだったと想像がつく。歌手にフォレスター、ルイスを得たのも大きな美点となっていて、この「ライナー・大地の歌」の細部における抑揚から聴き取れる呼吸は、マーラー演奏として決して場違いな印象はありません。


《大地の歌》単独を、LP1枚に詰め込んだレコード発売もあったが、初版の本盤は2枚組でカッティングにゆとりがあり、第4面にハイドンの《交響曲第88番》が収録されている。奇異に思わされるがライナーのマーラーを聴くとハイドンと組み合わされたことで、彼の演奏解釈の個性が把握しやすくなっている。吉田秀和が『世界の指揮者』で、「ハイドンだけをきかせて、現代人を心から満足させるのは容易ではない」と提唱し、その満足できる数少ない演奏として、ジョージ・セルとフリッツ・ライナーを挙げている。この2人の指揮するハイドンは知的で、美しく整っている。ことさらライナーが指揮した「V字」の明晰度は一度聴けば記憶に残る。快刀乱麻を断つ、清新な響きに満ち、多声的構造が手に取って感じられるようなほど立体的で、アンサンブルにデフォルメがなく筋肉質だ。感受性が未熟だったらフレームだけに思われるだろう。「V字」の録音の名盤は多い。しかもアルトゥーロ・トスカニーニ、ブルーノ・ワルター、オットー・クレンペラー、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー、ハンス・クナッパーツブッシュ、フリッツ・ブッシュ、クレメンス・クラウス、カール・ベームと思い出すまま列挙して改めて驚くほど巨匠たちの録音を聴くことができる。ハイドンの交響曲を指揮して一流の人は、指揮者としても一流である、という話を聞いたことがあるが、ハイドンの音楽は彼等を魅了してきた。この「V字(Letter V)」という副題には意味はない。ロンドンのフォースター社がハイドンの交響曲の選曲集を出版する際、選出された23作品にA〜Wのアルファベットを付け、第88番に「V」が割り当てられた、というだけのことである。


ハイドンの楽風の魔力はその基調たる自由さと歓喜にある。抑えきれない、まったく素直な心の高揚はまずそのアレグロを支配している。これは荘重な部分にも、アンダンテにも認められる。「V字」第1楽章で16小節からなるアダージョの序奏部から続く、アレグロは一つの楽想を巧みに展開させた構成で、とってつけたアダージョの序奏におわらず、その卓越した和声法、ダイナミクスの対比として楽しい。素朴さと穏やかさが心地よいラルゴの変奏曲が展開される途中、突然ティンパニとトランペットが登場してアクセントとなる第2楽章。第3楽章はトリオで民族舞曲のような味わいが出ている明るいメヌエット。第4楽章は再び第1楽章と同じく、一つの楽想を手際よくさばき、楽しげに起伏を描くアレグロ・コン・スピーリト。コーダも痛快。軽快でありながらも、緊密で力強い構成感が印象に残る傑作である。簡潔さの中に音楽的内容の充実度と自由度がある「V字」には、非常に高い中毒性がある。ハイドンの美質がきれいに無駄なく詰まっていて、指揮者の力量や気性を知る上でも、聴きやすい。


ハイドンの音楽に感動するということは、指揮者のテクニックに感動しているのだ。「ハイドンの精神で演奏しながら、表現上の抑揚はロマン派のマーラーに相応しいスタイル」と称されるライナーらしいマーラー解釈の典型的な例である。


巷では《大地の歌》は「左右の音が逆になっている」と、間違った認識がレビューに特記として掲げられているものがある。これは1970年代に説明される時に、わかりやすく言い換えられたところが短絡的な理解のままに、ネット時代になっても続いてきたものだろう。「左右の音が逆になっている」なら、出力を左右差し替えるだけでよい。1959年11月7日と9日の録音された、ライナー指揮シカゴ響による「大地の歌」はコントラルトのフォレスターが歌う楽章と、テノールのルイスが歌う楽章とで、オーケストラのサウンドが異なる。ソリストの歌はどちらも中央にはっきりと定位する。3チャンネルのうちソリストの歌は、ソロ用のマイクでセンター・チャンネルに収録されたため問題はなかったが、11月7日の初日のセッション後に3チャンネルのうちの一つのチャンネルが、誤って逆の位相で録音されていたことが発見されたようで、2日後に行われた2回目のセッションでは正しく修正された。フォレスターとルイス、それぞれのセッションで録音されたのだろうが、一つの楽章間で両日のテイクが繋ぎあわされている箇所があったことで、結果として全曲を通じて間歇的にオーケストラの音が変化することになってしまったというわけだ。

1959年11月7,9日 シカゴ、オーケストラ・ホール(3トラック録音)、プロデューサー:リチャード・モア、エンジニア:ルイス・レイトン


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通販レコード詳細・コンディション、価格

プロダクト

レコード番号
LSC6087
作曲家
グスタフ・マーラー ヨゼフ・ハイドン
演奏者
モーリン・フォレスター リチャード・ルイス
オーケストラ
シカゴ交響楽団
指揮者
フリッツ・ライナー
録音種別
STEREO

販売レコードのカバー、レーベル写真

コンディション

ジャケット状態
M-
レコード状態
M-
製盤国
US(アメリカ合衆国)盤
SHADED DOG, STEREO 2枚組, Release 1960, Stamper 1S/1S/1S/1S オール1S最初期スタンパー.

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  • オーダー番号34-23713
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