フォーレの《レクイエム》には次から次へと名演奏というに値するレコードが出てくるが、それでもこのレコードに残されたパリ音楽院管弦楽団の古の響き ― クリュイタンス盤を凌駕するような素晴らしい演奏にはぶつからないように思われる。全体を貫く敬虔な祈りと抒情の精神は、この曲の本質に最も近いところにあるのではないだろうか。
このフォーレの《レクイエム》は、フランス国立放送管弦楽団と1950年10月に録音したモノラル盤に続く、クリュイタンスにとって2度目の録音となったもの。1962年に録音された本盤の〝フォーレのレクイエム〟は、クリュイタンスの一連の録音の中でも、ビゼーの「カルメン&アルルの女」と並んで、最も評価の高いアルバムであり、1963年に発売されて以来、カタログから一度消えたことのない定盤として聴き継がれている名演です。
ガブリエル・フォーレの音楽は、人を無垢な状態にしてくれる。日常の衣を脱ぎ捨て、素のままの自分と向き合う大切さを促す。だから私はストレスが溜まると、その音楽に身を委ねたくなる。特にフォーレ好きの日本の音楽ファンにとっては、フランスERATOのミシェル・コルボ盤(1972年録音)と並んで、《レクイエム》の最高の名盤と位置付けられています。
詩情に彩られた美しい音楽を書いたことで知られるフォーレの音楽は、洗練された感性と神秘的な陶酔感に満ち、心が洗われるような不思議な感覚を抱かせる。42歳の時に書かれた《レクイエム》は、そんなフォーレの魂が結晶した傑作で、気高く清純な美しさを誇っている。クリュイタンスの1950年盤もフォーレの慎み深い作品の魅力を引き出した名演として知られていますが、この1962年盤は旧盤よりもさらにフランスあるいはラテン的な意識を超えて、スケールの大きな深みのある演奏で、そこに込められた敬虔な感情の高まりは他に類をみないほどです。ここではすべてが自在に振る舞われているようでいて、つくりものめいた要素は一切ない。しかも、必要なものはことごとくきちんと踏まえられている。ドラマティックとはいえないまでも、誇張がなくて抒情的であり、清潔感を漂わせている。
2人のソリストも豪華で、「ピエ・イエズ」でのヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレスの清純さ、全盛期の輝きを示すディートリッヒ・フィッシャー=ディースカウの完璧無類な歌唱、いずれも歴史的な名盤に相応しい彩りを添えています。日本とは縁の深かったアンリエット・ピュイグ=ロジェが ― おそらく教会備え付けの ― オルガンを担当しているのもオールド・ファンには懐かしいことでしょう。永遠に受け継がれるレジェンダリー・パフォーマンス。
1962年2月14日、15日、5月25日&26日パリ、聖ロック教会での録音。
録音秀逸オーディオ・ファイル盤なのは言うまでもない。録音された時代と同じ空気を感じられるのが初期盤収集の楽しみを十二分に与えてくれる名盤です。