名曲名盤縁起◉ウィーンへの憧れをかきたてたカラスの妙演〜ヨハン・シュトラウス2世のワルツ《ウィーンの森の物語》

武者がえし

2020年01月10日 00:30

ツィターのアントン・カラス没 ― 1985年1月10日

 ソプラノ歌手ではなく、ツィターの名手、アントン・カラス(1906〜1985)の命日が今日。新春のウィーン・フィル・ニューイヤー・コンサートで近年、様々な楽器が登場する。指揮者がワンポイントで使う楽器(のようなもの)も定番化してきた。2017年のグスターヴォ・ドゥダメルは鳩笛を吹いた。面白いのでは指揮者がポケットに入れていた携帯電話が鳴ったこともある。2017年のグスターヴォ・ドゥダメルの演奏会でのポルカ・マズルカ《ナスヴァルトの娘》でのハープの伴奏を伴った、コンサート・マスターと、首席奏者のデュエットは恍惚にとろけるようなウィーンの香気を放っていた。
 あぁ、この陶酔感はヨハン・シュトラウスの音楽に魅了されるきっかけとなった《ウィーンの森の物語》をレコードで聞いた時だと想い出す。小学生の頃、ワルトトイフェルのワルツ《スケートをする人々》やヨハン・シュトラウス2世の《美しく青きドナウ》を気に入って、楽しい音楽だと認識した時に《ウィーンの森の物語》の虜になった。その後、何十年もシュトラウス・ファミリーのワルツの中で一番好きだと豪語していた。
 ヨハン・シュトラウス楽団は毎年ヨーロッパ中を演奏旅行して、旅先の郷土楽器をワルツに取り入れていった。それが他の楽器で代用できるくらいのものではなかったところが、ヨハン・シュトラウスの作曲技量を図れる。ブラームスが交響曲の世界で大成することを目指していたから、ヨハン・シュトラウスは交響曲を書かなかった。歌劇を一度は書いたが、喜歌劇に進んだのも親友への義理立てだろう。


ウィーンへの憧れをかきたてたカラスの妙演

 ツィターというのは、40本ほどの弦を指で弾いて鳴らす民族楽器で、ウィーンのホイリゲ(居酒屋)の喧騒のなかで、その素朴な響きを鳴り渡らせていた。アントン・カラスも居酒屋の奏者だったが、1948年、彼の演奏を聴いた映画監督のキャロル・リードが、オーソン・ウェルズ主演の映画「第三の男」の作曲を依頼、カラスが弾いた《ハリー・ライムのテーマ》は、映画とともに大ヒットした。

鑑賞のおすすめ盤は。 クラシック・ファンには親しいエピソードが伝えられている。ヴァイオリンを弾きながらウィンナ・ワルツを指揮して一世を風靡したウィリー・ボスコフスキーが、ウィーン・フィルとシュトラウスのワルツ《ウィーンの森の物語》を1962年に録音する時、曲の最初と最後にツィターが奏でる、のんびりした調べを、わざわざアントン・カラスに依頼した。演奏は大評判になり、この魅力的なワルツの人気をより高めたのである。
 ボスコフスキーの指揮は、ワルター、カラヤン、クライバーといった大指揮者たちの演奏にくらべると、ずっと現代的な表現で、旋律線をきれいに浮き立たせながら、きりりと引き締まった表現をする。伝統をしっかりと身につけているせいか、どの演奏にもウィーンの香気があふれている。
GB DECCA SXL6040 ボスコフスキー Tales FROM THE VIENNA WOODS

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