アナログレコードの魅力✪昭和の名盤レコードコンサートでご体験ください

　世界一流の「シルクのような弦」を誇るイスラエル・フィルを、チャイコフスキーをショルティ、ドヴォルザークをクーベリックと、若き日の２人の巨匠が振り分ける贅沢な１枚。
　チャイコフスキーは1958年５月テル＝アビブ、フレデリック・R・マン・オーディトリウム（the Heikhal Hatabut, Fredric R. Mann Auditorium）での録音。ドヴォルザークは1957年４月リション・レジオン、ティフェレ・シネマ（the Tiferet Cinema, Rishon-le-Zion）での録音。エンジニアはジェームズ・ブラウンの優秀録音、名プロデューサー、ジョン・カルショーの名盤。
　プロデューサーの意思が強く働いた録音セッションだと思われる。ゲオルグ・ショルティはクーベリックに先駆け、1957年３月に、レスピーギのバレエ音楽「風変りな店」とデュカスの「魔法使いの弟子」を録音。1958年４月のチャイコフスキーと同セッションで、モーツァルトのセレナーデ ト長調 K.525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」を録音、翌月、メンデルスゾーンの交響曲第４番 イ長調 op.90「イタリア」とシューベルトの交響曲第５番 変ロ長調 D.485 を録音している。この後、1958年秋からウィーン、ゾフィエンザールでウィーン・フィルとのベートーヴェンの交響曲チクルスに取り組んでいる。
　一方、ラファエル・クーベリックとイスラエル・フィルとの組み合わせは、このドヴォルザークが唯一ではないかしら。スリーブにはイスラエル・フィルであるがレコードのレーベルでの団体名は、イスラエル・フィルの弦楽奏者たち（The Strings Of The Israel Philharmonic Orchestra）となっている。イスラエル・フィルは、1936年にヴァイオリンの巨匠ブロニスワフ・フーベルマンが発足人となり、ヨーロッパ各地で政治的理由で解雇されたユダヤ人音楽家が結集して1936年に創設されたパレスチナ管弦楽団（Palestine Orchestra）が前身。お披露目の演奏会は、1936年12月26日にテル＝アヴィヴにおいてアルトゥーロ・トスカニーニの指揮によって行われた。頻繁な演奏旅行や録音の機会に恵まれ、しばしば首席指揮者に世界的な指揮者を迎えてきた。主なレパートリーは、ベートーヴェン、モーツァルト、メンデルスゾーン、ブラームス、チャイコフスキー、マーラーである。シェーンベルクのロマン派時代の作品もレパートリーに入っている。ユダヤ人演奏家に弦楽器奏者が多いことから、J.S.バッハ以降のヴァイオリン協奏曲もレパートリーに入っている。　弦楽セレナーデを取り合わせた本盤も、同時期にショルティが録音したレスピーギ、デュカス、モーツァルト、メンデルスゾーン、シューベルトは、いずれも弦楽器のフレーズが強烈に魅力的な名曲ばかりだ。指揮者のレパートリーとしては振り慣れていただろう。英DECCAは、ウィーン・フィルを専属オーケストラとして契約をした頃、この録音を前哨戦に、クーベリックはウィーン・フィルと英DECCAでの初録音となるチェロ協奏曲とマーラーの交響曲１番を皮切りに、ドヴォルザークやブラームスを録音していった。ショルティは、「ラインの黄金」の発売をして「ジークフリート」に臨もうかという時とあって、ウィーン・フィルの弦の魅力を引き出すための指揮者とエンジニアの強化訓練になったことだろう。クーベリックのセッションは、イスラエル・フィルとウィーン・フィルの弦楽アンサンブルの響きの録音ノウハウを得ただろうし、まだゲオルグ・ショルティは無名といえる指揮者で「リング・チクルス」の目を見張る成果に結びついた。
　弦楽の美しさに定評のあるイスラエル・フィルを２人の若き日の巨匠が指揮した名演。それぞれ10インチ盤で発売された２つの《弦楽セレナーデ》をカップリングした名企画の１枚で、後のSPAシリーズの時代にも再発された人気盤です。時期的に真空管アンプからトランジスタにカッティングは切り替わっていた頃で、盤の材質も純度と安定性が上がっているのでアナログの再生では扱いやすいレコードです。