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2024年12月26日

奇跡の証し フルトヴェングラー ウィーン・フィル リスト・前奏曲、ワーグナー・ローエングリン前奏曲/タンホイザー序曲

知識よりも情緒が音楽を響かせて、全体よりも細部が音楽をつくる。楽員はその指揮に従えば、奇跡を体験できた。

DE ELECTROLA E90 097 フルトヴェングラー/ウィーンフィル WAGNER

《独エレクトローラ最初期プレス, 220gフラット重量盤》DE ELECTROLA E90 097 フルトヴェングラー/ウィーン・フィル ワーグナー・ローエングリン/タンホイザー/リスト・前奏曲 WAGNER "Lohengrin"1.Akt/Ouverture zu "Tannhauser"/LISZT Les Preludes

 フルトヴェングラーのワーグナー・ローエングリン(前奏曲)は大変美しい。出だしの弦楽器だけの音色は透明感があり、表現は神々しさに溢れています。また『タンホイザー』序曲では弦楽器の細かな動きの驚くべき雄弁なニュアンス、ウィーン・フィルの繊細な名人芸にうならされます。そして、リストの交響詩「前奏曲」は、これを最初に聞いてしまうと、以降どの演奏をきいても貧弱にしか聞こえなかったほどに素晴らしい演奏である。音も明瞭でフルトヴェングラーの録音のなかでも最も音の良いものの一つとしても高い評価を得ています。
 厳粛な精神性ではなく大衆的表現を押し出した、個性が魅力。ウィーン・フィルのメンバーもオペラを理解していたし、フルトヴェングラーの伝えんとすることは心得たものだったのだ。伝え方がフルトヴェングラーは演奏会場の聴衆であり、ラジオ放送の向こうにある聴き手や、レコードを通して聴かせることを念頭に置いたカラヤンとの違いでしょう。
 先輩格のニキッシュから習得したという指揮棒の動きによっていかにオーケストラの響きや音色が変わるかという明確な確信の元、自分の理想の響きをオーケストラから引き出すことに成功して云ったフルトヴェングラーは、次第にそのデモーニッシュな表現が聴衆を圧倒する。当然、彼の指揮する管弦楽曲は勿論のこと、オペラや協奏曲もあたかも一大交響曲の様であることや、テンポが大きく変動することを疑問に思う聴衆もいたが、所詮、こうした指揮法はフルトヴェングラーの長所、特徴の裏返しみたいなもので一般的な凡庸指揮者とカテゴリーを異にするフルトヴェングラーのキャラクターとして不動のものとなっいる。
 曲が進むに連れ次第にドラマの深淵へと引きずり込まれてゆく。求心力がある演奏で、序曲だけで名作オペラの真髄を知る事ができるくらいです。演奏も全く機械的ではない指揮振りからも推測されるように、楽曲のテンポの緩急が他の指揮者に比べて非常に多いと感じます。しかし移り変わりがスムーズなため我々聴き手は否応なくその音楽の波に揺さぶられてしまうのです。
1954年3月3日-4日(交響詩『前奏曲』)、1952年12月3日、(『タンホイザー』序曲)、1954年3月4日(『ローエングリン』第1幕への前奏曲)ウィーン、ムジークフェラインザール録音。名演、名盤。
年代を考えると音の鮮度は驚異的に高いレヴェルです。
ドイツ最初期エレクトローラ・フラット盤、特に220g以上重量盤は、既に所有されている方はお判りでしょうが、製造工程で付着した凹凸で名演にもかかわらずレコードプレーヤーに載せても「針飛び」生ずる盤多く閉口したものですが、幸い本盤は最初期フラット盤ですがこうした瑕疵事項は無い盤です。半世紀前盤としては既に骨董品の域に入っています。

レコードのディテール

Wilhelm Furtwangler, Vienna Philharmonic Orchestra - LISZT - Les Preludes, WAGNER - Lohengrin prelude, Tannhauser overture

プロダクト

独逸エレクトローラ最初期プレス, フラット重量盤 220g, 英国EMI盤同一輸入メタル 2XVH 原盤使用盤 最初期スタンパー。

レコード番号
E90 097
作曲家
フランツ・リスト リヒャルト・ワーグナー
オーケストラ
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
指揮者
ヴィルヘルム・フルトヴェングラー
録音種別
MONO
製盤国
DE(ドイツ)盤
 フルトヴェングラーはブラームスを評して「非常に客観的な音楽家」といい、「音楽における客観とは、音楽と精神、精神と音楽が結び付いてひとつになった時に起こるのである」といっています。この偉大な指揮者はブラームスの音楽は彼の哲学そのものであると喝破したのです。それは、そのままベートーヴェンにも当てはまり。それがドイツの交響曲に対する彼の表現方法なのだろう。
 フルトヴェングラーの音楽を讃えて、「音楽の二元論についての非常に明確な観念が彼にはあった。感情的な関与を抑制しなくても、構造をあきらかにしてみせることができた。彼の演奏は、明晰とはなにか硬直したことであるはずだと思っている人がきくと、はじめは明晰に造形されていないように感じる。推移の達人であるフルトヴェングラーは逆に、弦の主題をそれとわからぬぐらい遅らせて強調するとか、すべてが展開を経験したのだから、再現部は提示部とまったく変えて形造るというような、だれもしないことをする。彼の演奏には全体の関連から断ち切られた部分はなく、すべてが有機的に感じられる。」とバレンボイムの言葉を確信しました。これが没後半世紀を経て今尚、エンスーなファンが存在する所以でしょう。

ヴィルヘルム・フルトヴェングラーは、つねにトスカニーニ、ワルターと並称される20世紀最大の巨匠であるが、その役割は、ただ指揮者として偉大であったというばかりでなく、唯物的感覚的な今日の音楽認識世界のなかで、正統的ロマン主義を意義づけ、音楽の思弁的有機的意味を復活した、というような点でも歴史的存在なのである。

フルトヴェングラー年譜

1886年(明治19) 0歳
1月25日、ベルリンにて誕生。父は高名な考古学者アドルフ・フルトヴェングラー(1853~1907)。
1906年(明治39) 20歳
2月19日、カイム管弦楽団(現在のミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団)を指揮してデビュー。ベートーヴェンの“献堂式”序曲とブルックナーの交響曲第9番を演奏。
1922年(大正11) 36歳
1月23日に急逝したアルトゥール・ニキシュ(1855~1922)の後任として、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(1928年まで)およびベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任。
1926年(大正15) 40歳
10月16日、初録音。曲目はウェーバーの歌劇“魔弾の射手”序曲。
1927年(昭和2) 41歳
フェリックス・ワインガルトナー(1863~1942)の後継としてウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の常任指揮者に就任(1930年まで)。
1933年(昭和8) 47歳
9月15日、プロイセン枢密顧問官に就任。11月15日には帝国音楽院副総裁に就任。
1934年(昭和9) 48歳
11月25日、ドイッチェ・アルゲマイネ・ツァイトゥンク日曜版に「ヒンデミット事件」と題した論文を投稿。ヒンデミットの歌劇“画家マチス”を上演禁止したナチスと対立。12月5日、プロイセン枢密顧問官および帝国音楽院副総裁を辞任。1935年3月に両者和解し、指揮台に復帰する。
1937年(昭和12) 51歳
10月8日と11月3日、戦前最高の名盤と謳われたベートーヴェンの交響曲第5番を録音。
1942年(昭和17) 56歳
4月19日、ヒトラー生誕前夜祭でベートーヴェンの交響曲第9番を指揮。
1944年(昭和19) 58歳
12月、戦災に苦しむ同胞のためウィーン、ムジークフェラインザールにてベートーヴェンの交響曲第3番“英雄(エロイカ)”を放送用に録音。1953年にアメリカ、ウラニア社がレコード化し「ウラニアのエロイカ」として有名な録音となる。
1945年(昭和20) 59歳
1月28日、ウィーン・フィル定期演奏会へ戦前の最後の出演。1月30日にウィーンを発ちスイスへ亡命。第2次大戦終結後、連合軍から戦時中のナチ協力を疑われ、演奏禁止処分を受ける。
1947年(昭和22) 61歳
5月25日、「非ナチ化」裁判の無罪判決をうけ、戦後初めてベルリン・フィルの指揮台に立つ。曲目はベートーヴェンの交響曲第5番“運命”、同第6番“田園”ほか。
1948年(昭和23) 62歳
10月24日、ベルリンでブラームスの交響曲第4番を指揮。実況録音が巨匠没後の1959年にLP化され、同曲最高の名演の一つと言われるようになる。
1951年(昭和26) 65歳
7月29日、バイロイト音楽祭再開記念演奏会でベートーヴェンの交響曲第9番を指揮(7月29日)。このときの録音は彼の没後にLP発売され「バイロイトの第9」として有名になる。
1952年(昭和27) 66歳
11月26、27日、EMIへベートーヴェンの交響曲第3番“英雄”をセッション録音。同曲録音集、また巨匠のセッション録音中でも屈指の名盤との評価を得る。
1953年(昭和28) 67歳
5月14日、DGへシューマンの交響曲第4番をセッション録音。巨匠の最も優れたレコーディングとして知られるもので、音楽之友社刊『新編名曲名盤300』でもこの曲のベスト・ワンとして推されている名盤。
1954年(昭和29) 68歳
11月30日、ドイツ、バーデン=バーデンにて肺炎により死去。




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