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プレリュード

高校の音楽室。男子生徒がピアノを弾いていた。
エチュードのようなシンプルな指使いのようだけど、静かで落ち着いた気持ちにさせてくれる。
メロディーは鼻歌にでも出来る楽しさもあるのに、不安や悲しみを忘れさせてくれるようだ。


「なんて曲？」
「ショパンの雨だれ。」
「モーツァルト？」
「ううん、ショパン。」

「うーん、ショパン？　知らないな。
　でも、良い曲。」

女子生徒は目を閉じて聞き入った。教室の窓から差し込む光が少女の体全体を包み込んでいくようだった。
霧が晴れていくような曲だ。雨だれってタイトルなの、変わっているわね。女生徒は心のなかで思った。



その高校の音楽室の壁には大作曲家の肖像が並んでいた。

バッハ、ヘンデル、モーツァルト、ベートーヴェン、シューベルトと続いて、シューマン、ブラームス、リスト、ワーグナー、ヨハン・シュトラウス、チャイコフスキー、ラフマニノフと後が来る。
シューマン、ブラームス、リストのグループにショパンがなくてもピアノは発展して今と変わるところはないだろう。

そうだとショパン国際ピアノコンクールが話題を振りまくことはない。
ショパンの代わりにベルリオーズがいたら、ピアノ音楽よりも吹奏楽が音楽の中心にある現代になっていただろうな。
容易に想像がつく。

クラシック音楽の大きな本流の中にショパンは存在としては、ほんの寄り道でしか無いのだから。
でも、彼が書き残した楽譜は心をつかむ音楽なのだ。
女生徒がモーツァルトの曲かな、と思ったとおり。詠み人知らずの名句と同じでもいいだろうか。

取り残された悲しみ

雨だれのプレリュードは、ショパンがバッハの前奏曲とフーガに倣って作曲した曲集の中の一曲。ショパンの数多いピアノ曲集、ワルツ、ノクターン、マズルカなどとは傾向の違う。ショパンの作品集の中で一番特別なのが前奏曲集。
この曲集があって、ショスタコーヴィチが存在できる。とすれば戦争の影はないという理論になるのかな。

続きは違う時に。

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